遠野市とサレルノ市が築き上げた友情のストーリーは、ルーツが異なるにもかかわらず、共
通のプロジェクトと同じ未来図を持つ二つの都市の住民が30年以上にわたり、両都市間で
大切に築いてきた文化交流の歴史を物語っています。

古くから土地に伝わる民話、おとぎ話を研究して読み解くことはその土地の伝統文化を知
り、住民の住む世界、ひいては住民自体を理解し、ひも解いていくことに他なりません。

架空の物語は人々と文化を横断的に結びつける働きをし、と同時にその文化の持つ特殊性に
ついて伝える力を持っています。想像の世界の言葉を通して、お互いを知ることができ、親
近感を持つことから、実際の出会いへとつながり、遠く離れた距離は、お互いの好奇心を生
む刺激へとつながるのです。

遠野市とサレルノ市は、全く異なる特徴を持つ二都市です。遠野市は三万人ほどの人口を持
ち、周囲を山と水田に囲まれた小都市です。一方、サレルノ市は13万人以上の人口を誇
り、ナポリの南東に位置する港湾都市で、ボナディエス丘陵地帯のふもとに開けた大きな都
市です。またサレルノ市はティレニア海に面し、風光明媚な景観で名高いアマルフィ海岸を
北部に有し、南部にも重要な観光地のひとつであるチレント海岸があります。

1984年8月8日に、サレルノ市と遠野市は、映画 “遠野物語” にその端を発する姉妹都市提
携を調印しました。遠野に語り継がれる民話がこの二都市を30年以上も結びつけるきっか
けとなったことは実に奇妙なめぐりあわせとしか言いようがありません。

1910年に日本の民俗学者、柳田國男が民話の大規模な集大成として“遠野物語”を編纂したこ
とで、遠野市は民話の里として知られています。民話の中でも最も有名な登場人物と言え
ば、”河童”です。川や沼に住み、半身が人間で、半身は亀という緑色の生き物で、好物であ
る人間の子供を沼などのわなに陥れ、食べてしまいますが、きゅうりと交換することを提案
すると喜んで受け入れるという憎めないキャラクターです。また、遠野市内には、遠野地方
の伝統的な農家の住宅である ”南部曲り家”(母屋と馬屋が一体となったL字型の萱葺きの
住宅)がいまだに残っており、この地方の伝統風俗を体験できる博物館としての機能も果た
しています。さらに、遠野の文化と伝統を守り、後世に伝える人々を “まぶりっと(守る
人)”と呼び、このまぶりっと衆が昔ながらの遠野の風習、習わしを新しい世代に伝えてい
るのです。

一方、サレルノは数世紀に及ぶ長い歴史を誇る都市で、市内は数多くの史跡に富み、その姿
はさながら “野外博物館” のようです。この都市が持つ魅力は古代ロンゴバルド公国時代
の繁栄の痕跡と現代的な都市景観が同時に見られるという、いわば伝統と現代性の融合で
す。サレルノ市ではここ数十年で、古い建物や、郊外の地区の歴史的価値を再評価するプロ
ジェクトが実施されており、歴史的建造物に再び命を与え、歴史と伝統を現代に継承してい
くという趣旨の様々なコンペティションが開催され、日本からも若い有能な建築家たちが参
加を表明しました。老朽化が進んだサレルノの歴史的建造物、サン・マッシモ邸周辺の修復
計画にも日本人建築家がプロジェクトを提案し、この地区の持つ歴史的背景、高低差のある
地理的条件を最大限に考慮し、複数の公園と緑にあふれた垂直庭園の着想を提案しました。
さらにサレルノ市北部旧市街地区再生計画と題したプロジェクトが提案され、市民を悩ませ
ている交通渋滞、駐車場の不足に関しても夏期的なアイディアを提示し、サレルノ都市再生
計画推進の一助を担おうとしています。

このように、建築業界での友好関係は両都市の絆をより強く深める結果となりました。

Una veduta di Salerno
foto Massimo Pica

遠野市とサレルノ市の姉妹都市締結へのすべての発端は、1982年10月、映画 “遠野物語”
が第35回サレルノ国際映画祭においてグランプリを受賞したことに始まります。この映画
を見たサレルノ市長アルベルト・クラリツィア氏が “遠野物語” の監督である村野鐵太郎
氏に遠野市長宛ての親書を託したことがきっかけです。

その後、遠野市長とサレルノ市長との間で返礼の手紙の交換があり、1983年2月には、姉妹
都市締結は遠野市議会にて満場一致にて可決されました。その翌年には、サレルノ市へ遠野
市から使節団が派遣され、公式に姉妹都市締結の調印が行われ、同時に世界平和を希求し、
人類全体にとっても大きな友好関係のモデルとなることを祈願しました。

2004年、姉妹都市締結20周年を記念する式典の際に、サレルノ市役所の市民の間にて、二
都市を結びつけるきっかけとなった映画、“遠野物語” が再び上映されました。

その後、両都市間の文化交流が途絶えがちになる数年間が経過しましたが、2011年、東北
地方を襲った地震により甚大な被害を受けた遠野市に援助の手を差し伸べようと、姉妹都市
締結20周年の機会に親善大使に就任したアンナマリア・ヴァリトゥッティさんの指揮のも
と、サレルノ市は募金活動を開始。交流の歴史は再び再開されたのです。

2012年3月には、姉妹都市提携調印更新式典が行われ、遠野からの代表団がサレルノ市に到
着、その際、壮大な伝統衣装をまとった踊り子の一団が遠野の無形民俗文化財である“しし
踊り”(鹿の面をつけて踊る鹿踊り)を披露しました。

両都市間の文化交流の一環として、サレルノの市民が遠野市の一般家庭にてホームスティし
たり、遠野市からもスポーツ、食べ物、ワインなど、様々なテーマに基づいた使節団が組織
され、サレルノ市、またはカンパーニア州を巡る視察旅行が催行されています。ビジネスの
観点から見ても、両都市間の交流は行われており、2016年にはサレルノ商工会議所が開催
したイベントにて、遠野市の紹介とともに、遠野産の日本酒がサレルノ市民に紹介されまし
た。
土地に語り継がれる物語の数々はその土地の住民のアイデンティティ、そして、土地が育ん
できた世界観を創造するものです。古くから語り継がれてきた民話から生まれた魔法がきっ
かけとなり、遠野市とサレルノ市は接点を持つようになりました。

お互いを知りたいと願うことが好奇心を生み、遠く離れた二都市を結ぶたくさんの扉が築か
れ続けています。この扉は友情の大切さを強く訴えかける両都市の絆の証なのです。

サレルノ-遠野
1984年8月8日

サレルノ 遠野
カンパーニア州 岩手県
気候: 冬季でも温暖、夏期は乾燥し、暑い 気候:湿気に富む
おすすめ観光スポット:

サレルノ旧市街地区

サレルノ大聖堂

おすすめ観光スポット:

福泉寺

遠野ものがたりの館

ご当地フード

アンチョビのピアッテッラ(オイル炒め)

サンタ・ローザのスフォリアテッラ

スカッゼッタ・デル・カルディナーレ
(苺のケー
キ)

チャンボッタ(野菜のオイル煮)

ご当地フード:

ジンギスカン

どぶろく

がんづき

ワサビビール

 

 執筆  Floriana Maci 
翻訳   土田 ゆかり (Yukari Tsuchida)

Websites:
www.tonojikan.jp
www.tono-furusato.jp
www.festivaldelcinema.it